コラム2025.12.12
「シチリアワイン」を形づくる、タスカ一族 200年の物語
タスカ・ダルメリータとシチリアの葡萄畑との結びつきは、凡そ二世紀前に始まりました。その歩みは一貫して品質と革新への情熱に支えられ、ワイナリーの名は世界的に知られる存在へと成長しました。現在では、レガレアーリを筆頭とする五つのテヌータが、多様な土地の個性を示す拠点として重要な役割を担っています。

シチリア島の5つの異なる地域を舞台に、約2世紀にわたるタスカ・ダルメリータ家の歴史は、1830年にタスカ兄弟(ドン・ルチオとドン・カルメロ・マストロジョヴァンニ)がレガレアーリの地に1,200haに及ぶ農園を取得したことから始まります。ここは主要道路から離れた、パレルモとカルタニセッタの間に広がる山間で、現在500ヘクタールの農園は標高400〜900メートルに位置し、6つの丘陵と12種類の土壌があります。この地域は想像される「シチリア固有の地中海性気候」とは異なり、昼夜の寒暖差の大きさや、土地ごとの微気候が多様な葡萄栽培に適した環境を形成しています。1854年には既にモデル農場として評価を受け、タスカ家は以来8世代にわたり、農業経営と醸造技術の改良を着実に重ねてきました。
戦後のシチリアでは、ワインの多くがバルクとして北イタリアや南フランス向けのブレンド用に出荷されていましたが、レガレアーリでは6代目ジュゼッペ・タスカ・ダルメリタ伯爵が瓶詰めと品質向上に向けた取り組みを進めました。1959年には区画サン・ルーチョにペリッコーネとネーロ・ダーヴォラを植樹し、シチリアで初となる「単一畑」ワインを切り開きます。その成果が 1970 年に生まれた「ロッソ・デル・コンテ」であり、高く評価されます。また、先駆けて1960 年に発売された「レガレアーリ・ビアンコ」は在来品種を主体とするブレンドで、国内外で広く流通し、高品質なシチリアワインとしての認知度向上に大きく貢献しました。

7代目ルーチョ・タスカは 1970 年代末より国際品種の導入を進め、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネがシチリアでも高品質なワインを生むことを実証しました。これによりタスカ・ダルメリータはテロワール研究と栽培技術の両面で評価を高め、国際市場における存在感を確かなものにしていきます。
さらにルーチョ伯爵は、イタリアの主要ワイナリー 18 社による団体「グランディ・マルキ(Grandi Marchi)」の創設メンバーとして名を連ね、産地全体の価値向上にも貢献しました。1998 年にはプラネタ、ドゥーカ・ディ・サラパルータとともに「シチリアワイン協会(Assovini Sicilia)」を設立し、シチリアの品質向上と産地ブランド確立に大きく寄与しました。また、ワイナリーへ参画する以前は、1960 年のローマオリンピックで馬術競技に出場するなど、オリンピアンとして活躍した人物でもあります。
2000 年代に入るとワイナリーは多拠点化を進めます。カポファーロ/サリーナ島(2001年)、タスカンテ/エトナ(2006年)、ウィタカー/モツィア島(2007年)、サリエ・デ・ラ・トゥール/モンレアーレ(2009年)へ展開。現在はレガレアーリを含む 5つのテヌータで、環境の違いを生かしたワイン造りを行っています。こうした複数エステートによるテロワール表現の体系化はイタリアでは稀で、フランスのシャトーに通じる長期視点の農園運営として評価されています。
数々の業績を重ねたルーチョ伯爵は2022年に逝去しました。「グランディ・マルキ」や「シチリアワイン協会」から公式の追悼声明が発表され、プラネタやドンナフガータ、ドゥーカ・ディ・サラパルータなど、盟友と言えるワイナリーからも弔意が寄せられました。これらの反応は、ルーチョ伯爵がシチリアのみならずイタリアワイン全体に残した影響の大きさを示すものです。その遺志は現在、8代目アルベルト伯爵へと確実に受け継がれています。


8代目アルベルト・タスカ(1971 年生まれ)は、革新と研究を重視する姿勢を引き継ぎつつ、「シチリアは多様性という宝である(Sicily is a treasure of differences)」という考えを基礎に据え、サステナビリティを経営の中心に据えてきました。土地を「先祖からの遺産ではなく、未来の子どもたちから借りているもの」と捉え、環境負荷を抑えた農業の実践を追求するとともに、「ワインという言語を通して土地に声を与える」という信念のもと、持続可能性に関する教育や普及活動にも積極的に取り組んでいます。
こうした思想を具体化したのが「SOStain」プログラムです。2009 年以降タスカが主導して発展させてきた同プログラムは、2020 年に SOStain シチリア財団として再編され、生産者向けの指標策定や研修活動を通じて、シチリア全体の産地価値向上に寄与しています。
タスカ・ダルメリータの取り組みは国際的にも高く評価されており、2012 年のガンベロロッソ「最優秀ワイナリー」、2019 年のワイン・エンスージアスト誌「ヨーロッパ最優秀ワイナリー」受賞に加え、ロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケイトによる「グリーン・エンブレム」の授与、さらには B コーポレーション認証取得など、環境・品質・企業姿勢の各側面で評価を確立しています。
長い歴史と世代を超えた投資、多拠点でのテロワール研究、そして持続可能性を軸とするタスカ・ダルメリータ。シチリアの多様性と可能性を示し、地域の発展に貢献するワイナリーであることを物語っています。

- Tasca d’Almerita 公式サイト https://www.tascadalmerita.it/
- Tasca d’Almerita – Our Story https://www.tascadalmerita.it/en/our-story/
- Assovini Sicilia(シチリアワイン協会) https://assovinisicilia.it/
- SOStain Sicilia Foundation https://www.sostainsicilia.it/
- Istituto Grandi Marchi(グランディ・マルキ)https://www.istitutograndimarchi.it/
- Alain Elkann Interviews Lucio Tasca d’Almerita https://www.alainelkanninterviews.com/lucio-tasca-dalmerita/
- Wine Spectator Italy’s New Faces: Alberto Tasca d’Almerita https://www.winespectator.com/articles/italys-new-faces-alberto-tasca-dalmerita-1850
- Wine Spectator Lucio Tasca d’Almerita, a Champion of Sicilian Wines, Dies https://www.winespectator.com/articles/lucio-tasca-d-almerita-a-champion-of-sicilian-wines-dies
- Grape Collective Open the Treasure Box of Diverse Sicilian Wines with Tasca d’Almerita https://www.grapecollective.com/open-the-treasure-box-of-diverse-sicilian-wines-with-tasca-dalmerita/
- Gambero Rosso Vini d’Italia(2012年版、2019年版)
- Wine Enthusiast European Winery of the Year 2019
- Robert Parker Wine Advocate Green Emblem
