コラム2026.08.20

教皇のワインと12.5の誕生 ~ヴァルヴァリオーネ 2つのワインの物語~

ヴァルヴァリオーネ

 同じプーリアのプリミティーヴォから造られながら、印象の大きく異なる二つのワインがあります。ひとつは、教皇の土地で生まれ、バチカンへ贈られた重厚な「パパーレ」。もうひとつは、その伝統を愛する次世代が生み出した軽やかな「12.5」。どちらも現在では、ヴァルヴァリオーネを代表するシリーズとなっています。現在はこれらに加え、「ファミリー」ラインと「地場品種」ラインを擁して4つの柱のラインナップを構成していますが、なんといってもこの2本が、今日のヴァルヴァリオーネを作り上げました。その誕生をたどると、100年以上続く家族経営のワイナリーが、プーリアの伝統を守りながら新しいワインのあり方を模索してきた姿が見えてきます。

左:パパーレ・リネア・オーロ 中央:プリミティーヴォの葡萄 右:12.5プリミティーヴォ

115本のパパーレ、その届け先はバチカン

 2013年3月12日。ローマ教皇ベネディクト16世の退位を受け、次の教皇を選出するコンクラーベ(教皇選挙会議)が始まったその日、アメリカ・カリフォルニアのワインショップに1本の電話がかかってきました。注文されたのは、2008年ヴィンテージの「パパーレ」115本。

 ショップのオーナー、マイケル・カーペンター氏は、当初は特別な注文とは思わなかったといいます。ところが配送先を確認すると、行き先はバチカン市国。そして「115」という本数は、そのコンクラーベに参加した枢機卿の人数と同じでした。誰が注文したのか、ワインが最終的に誰の手に渡ったのかまでは明らかになっていません。それでも、世界中から枢機卿が集まり、次の教皇を選んでいたその日に、115本のパパーレがバチカンへ向けて注文されたという出来事は、アメリカのCBS Newsでも取り上げられました。

パパーレの名が、その由来とともに広く知られるきっかけとなったエピソードです

「コントラーダ・パパーレ」 教皇の名を冠した区画のワイン

 「PAPALE(パパーレ)」とは、イタリア語で「教皇の」「教皇に関する」という意味を持つ言葉です。ワインの名前は、その葡萄が育つ「コントラーダ・パパーレ」と呼ばれる区画に由来しています。プリミティーヴォ・ディ・マンドゥーリアDOP内に位置し、プーリア出身の教皇として知られるベネディクト13世(1649-1730年)とゆかりがあったと伝えられています。本名ピエトロ・フランチェスコ・ヴィンチェンツォ・マリア・オルシーニ。1724年7月4日に教皇に選出された彼は、選出以前からこの区画でプリミティーヴォを育て、教皇就任後もこの地のワイン造りの伝統を守り続けたとされています。現在、この区画で栽培されるプリミティーヴォから、ヴァルヴァリオーネの「パパーレ」シリーズが造られています。

 ヴァルヴァリオーネの創業90周年を記念して、2011年に誕生したパパーレ。なかでも上位キュヴェとなる「パパーレ・リネア・オーロ」には、古木から手摘みしたプリミティーヴォを使用。フランス産トノーやアメリカ産バリックなどで最低10カ月熟成させています。熟したブラックチェリーやベリーを思わせる果実香に、カカオ、リコリス、スパイスなどのニュアンス。プリミティーヴォならではの豊かな果実味と力強さ、そして樽熟成による複雑さを楽しめる、ヴァルヴァリオーネを代表するワインです。また、2008年ヴィンテージから現在まで垂直試飲が可能なプリミティーヴォとしても知られています。

「もっと軽やかなプリミティーヴォを」

 2013年、マルツィア氏は弟アンジェロ氏、妹フランチェスカ氏とともに、低アルコールワインの新ラインを両親に提案します。プーリアの強い日差しを受けて育つプリミティーヴォは糖度が高くなりやすく、一般的にはアルコール度数も高くなる傾向があります。その豊かさは大きな魅力である一方、もっと気軽に食卓で楽しめるスタイルがあってもいい。

 「このワインは、高くなりすぎていたワインのアルコール度数への対応として造られました。12.5%というのは、実はかつてのワインの主な度数に近く、飲みすぎを心配せずワインを楽しめる度数ともいえます。」とマルツィア氏は語ります。フードフレンドリーな低アルコールワインへの注目が世界的に高まるより数年早い、時代を先取りした提案でした。「両親は最初、懐疑的でした。でも今では、私たちを信頼してくれています。新しいプロジェクトを始める準備はいつでもできています。」

 ワイン名である「12 e Mezzo」とは、イタリア語で「12と半分」。その名の通り、12.5%というアルコール度数をひとつの特徴としています。アルコールを後から除去するのではなく、収穫タイミングを他のプリミティーヴォより5日早め、若木(樹齢6〜20年)から収穫したブドウを低温発酵させることで、自然に低アルコールを実現しています。ウーディネ大学とローマ大学トル・ヴェルガータ校との共同研究によって生まれた製法で、低アルコールながら品質と飲み応えを両立させています。

12.5シリーズでは、プリミティーヴォの他、マルヴァジアやオーガニックも揃える

重厚な「パパーレ」、軽やかな「12.5」

 パパーレと12.5。同じプーリアで育つプリミティーヴォを使いながら、そのスタイルは大きく異なります。「パパーレ」は熟成と深みを追求するスタイルで、プリミティーヴォの最高峰として専門家やソムリエの高い評価を受けました。一方の「12.5」では、プリミティーヴォの魅力を残しながら、より軽やかな仕上がりで、ミレニアル世代を含む幅広いワインラバーを惹きつけました。

 どちらか一方だけが、ヴァルヴァリオーネらしさ、というわけではありません。長く受け継いできた土地や品種を大切にすること。そして、それを時代や飲み手にあわせて新しく表現していくこと。パパーレと12.5という2つのワインには、100年以上続く家族経営のワイナリーが、伝統だけにとどまらず変化を続けてきた姿が表れています。

ヴァルヴァリオーネ4代目(左→右)マルツィア(当主)、アンジェロ(弟:アグロノモ)、フランチェスカ(妹:エノロゴ)

  • Varvaglione 公式サイト https://varvaglione.com/en/
  • 2013年コンクラーベ概要 https://simple.wikipedia.org/wiki/2013_papal_conclave
  • CBS NEWS https://www.cbsnews.com/losangeles/news/mysterious-customer-orders-115-bottles-of-wine-to-be-sent-to-vatican-city/
  • WinesU https://www.winesu.com/papale.html
  • Bottle of Italy https://bottleofitaly.com/en-us/products/primitivo-di-manduria-dop-papale-varvaglione
  • SevenFifty Daily https://daily.sevenfifty.com/brands/varvaglione-1921/
  • Wine Enthusiast https://www.wineenthusiast.com/culture/travel/italian-women-in-wine/
  • WinesU https://www.winesu.com/12-e-mezzo1.html
  • Wine Review Online https://winereviewonline.com/inside-the-varvaglione-familys-journey-to-elevate-puglian-wine/
  • Forbes https://www.forbes.com/sites/cathrinetodd/2025/09/26/the-italian-red-wine-that-is-capable-of-making-various-great-styles/

ヴァルヴァリオーネ

PAGE
TOP