コラム2026.02.03
タスカ・ダルメリータが示す、シチリアにおける「エレガンス」という選択
コラム:「シチリアワイン」を形づくる、タスカ一族 200年の物語
コラム:シチリアワインの「基準」は、こうして作られた。タスカ・ダルメリータの挑戦を紐解く。
「私たちの目標は、クリーンでエレガントなワインを造ること。それに関しては、ほとんど偏執的といっていいくらいです。」―アルベルト・タスカ

「シチリアのワイン」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、太陽をたっぷりと浴びた豊かな果実味や力強さ、そして温暖な土地ならではのスケール感ではないでしょうか。そうしたなか、シチリアを代表する名門タスカ・ダルメリータを訪れると、説明で繰り返し登場する言葉があります。それが「Elegance(エレガンス)」です。
この言葉は特定のスタイルを示すというよりも、先代のルーチョ・タスカから、現当主アルベルトへと受け継がれ、タスカ・ダルメリータが長い時間をかけて育んできた思想そのものといえます。

インパクトと力強さより、バランスと余韻
タスカ・ダルメリータのワイン造りでは、果実の凝縮感や高いアルコールによって即座に印象づけることは重視されてきませんでした。それよりも、飲むたびに理解が深まり、ソムリエや飲み手との関係が持続していくような味わいが大切にされています。
この方向性が明確になったのは、先代ルーチョの時代です。太陽に恵まれたシチリアという条件のなかで、力強さへと傾倒するのではなく、あえてバランスと余韻を選ぶ判断が、時間をかけて積み重ねられていきました。その過程では外部コンサルタントとの議論も重ねられ、関わった人物のひとりとしてカルロ・フェッリーニの名も挙げられています。
「果実を過度に熟させない」という考え方は、現在においてもアルベルトの説明のなかに見て取ることができます。それは新しい方針というより、これまで選び続けられてきた判断の延長線上にあるものです。そうした姿勢は、結果として SOSTain をはじめとする現在のサステナブルな取り組みにも自然に結びついています。
タスカ・ダルメリータのワインは、アタックで強く主張するのではなく、口中で味わいが静かに広がり、飲み進めるほどに理解が深まる構成を備えています。アルベルトは、アルコール感や濃さではなく、張りと全体の均衡によって、長く付き合える味わいを形づくることを重視してきました。飲み終えたあとに輪郭を残す、この「バランスと余韻を大切にする設計」こそが、タスカ・ダルメリータのワインが飲み続けられいる大きな理由と言えます。

フレッシュネスを、構造の要素として捉えること
ワインの構造は、タンニンや酸味に加え、アルコールや熟成の要素などが重なり合う、複合的なものとして語られることが多くあります。そのなかで タスカ・ダルメリータ は、フレッシュネスを、味わいに輪郭と張りを与え、全体の構造を整えるための重要な要素として捉えてきました。
レガレアーリは標高約450〜850メートルの丘陵地帯に位置し、冬には雪が降ることもある環境にあります。寒暖差が大きく、夏には昼夜の気温差が20度に及ぶこともあり、醸造責任者であるローラ・オルシ氏は、こうした気候条件が、ワインのフレッシュさと酸味を保つ要因のひとつになっていると述べています。
こうした環境のもとで、タスカ・ダルメリータでは、品種や醸造技術以上に、標高や畑の向き、収穫のタイミングが重視されてきました。ボディで印象付けるのではなく、張りと余韻を大切にした味わいが形づくられています。フレッシュネスを構造としてとらえるこの考え方は、タスカ・ダルメリータのワインに共通するエレガンスに繋がっています。

風景をそのまま伝えるワイン
エレガンスとは、地域ごとの個性を覆い隠さず、土地を見せるための透明性でもあります。タスカ・ダルメリータのワインでは、造り手の技術や意図が前面に出るのではなく、テロワールの違いが自然に伝わる設計が保たれています。当主アルベルトの兄であるジュゼッペは、シチリアを単一の産地ではなく、地域ごとに気候や土壌が大きく異なる「大陸のような土地」と語ります。
・内陸に広がる広大な丘陵地帯であるレガレアーリ
・活火山という厳しい環境をもつエトナ
・そして風と水に恵まれたモンレアーレのサリエ・デ・ラ・トゥール
それぞれのテヌータは全く異なるテロワールを持ち、それぞれのワインは、共通したバランスを備えながらも、同じ味にはならない。ワインが風景を覆わず、土地ごとの違いをそのまま受け取れること。この姿勢は、タスカ・ダルメリータが語るエレガンスの中核といえます。

エレガンスというシチリアの選択
タスカ・ダルメリータにとってのエレガンスとは、ワインのスタイルを指す言葉ではなく、シチリアが世界と向き合うために選び続けてきた判断の積み重ねといえます。自社瓶詰めの開始、単一畑の導入、国際品種への挑戦。それらはいずれも、シチリアのワインを国際的な比較の俎上に置くための選択でした。
その積み重ねの先に、タスカ・ダルメリータは「エレガンス」という言葉を据えています。バランス、フレッシュネス、透明性を備え、力ではなく、土地の風景を精度高く伝えるワインの在り方として。タスカ・ダルメリータが語り続けるエレガンスとは、シチリアが世界の偉大な産地と同じ文脈で語られていくために、選び続けてきたワイン造りの在り方そのものなのかもしれません。
いま世界的に求められている「エレガンス」は、新しい流行ではなく、ワインを長く飲み続けるために選ばれてきた在り方の再評価ともいえます。タスカ・ダルメリータは、その在り方を世代を超えて積み重ねてきた生産者のひとつです。
- Tasca d’Almerita https://www.tascadalmerita.it/
- Alberto Tasca & Laura Orsi インタビュー https://www.bkwine.com/features/wine-producer-profiles/taking-sicily-future-tasca-dalmerita
- Alberto Tasca インタビュー https://www.leadersmag.com/issues/2024.2_Apr/WSL/LEADERS_Alberto_Tasca_Tasca_Conti_DAlmerita.html
- Alberto Tasca インタビュー https://www.grapecollective.com/open-the-treasure-box-of-diverse-sicilian-wines-with-tasca-dalmerita/
- Alberto Tasca インタビュー https://www.italianwinepodcast.com/Episodes/ep-4-monty-waldin-interviews-giuseppe-tasca-almerita-winery-discover-italian-regions-sicily-sicilia/
- Giuseppe Tasca インタビュー https://www.aislombardia.it/racconti-dalle-delegazioni/tasca-d-almerita-la-sicilia-nel-bicchiere.htm
- Carlo Ferrini インタビュー https://www.wineinsicily.com/en/sicily-according-to-carlo-ferrini/
- SOSTain https://www.sostainsicilia.it/
