コラム2026.01.06
シチリアワインの「基準」は、こうして作られた。タスカ・ダルメリータの挑戦を紐解く。
シチリアがイタリアワインの銘醸地であることは、いまでは多くの人に共有された認識といえます。その評価の土台には、タスカ・ダルメリータがいち早く取り組んだ数々の挑戦がありました。“当時は挑戦、いまはスタンダード”となった彼らの歩みを、紐解いていきます。

自社瓶詰め|「名を掲げる」ことへの挑戦
20世紀半ば、シチリアワインの多くはバルクで流通し、本土や国外へ送られていました。タスカ・ダルメリータが行った自社瓶詰めは、誰がどこで造ったかを明確にし、評価される状態にする選択でした。もちろん、瓶詰めそのものは新しい発想ではありません。17世紀にはすでにボルドーやシャンパーニュ、ドイツの主要産地で行われ、イタリアでも1859年にガヤがバルバレスコを瓶詰しています。
一方、シチリアでは話が単純ではありません。先代のルーチョ・タスカによれば、19世紀にはレガレアーリやドゥーカ・ディ・サラパルータで瓶詰が行われていたものの、第一次世界大戦によってその流れはいったん途絶えたからです。多くのシチリアワインはブレンド原酒として扱われ、瓶詰という概念が浸透していなかった中、そういった断絶を経て、自社瓶詰めを再開します。1959年にリリースされたレガレアーリ・ビアンコにおける自社瓶詰は、シチリアで自らの品質を信じ、「名を掲げる」ことを選択するという、あらためての挑戦でした。

単一畑|品質を語る単位を「畑」に引き寄せる挑戦
単一畑は、20世紀前半からヨーロッパで芽生えていましたが、イタリアで具体的に動き出すのは1960年代に入ってからと言われています。ピエモンテでは1961年にViettiが、1964年にはFontanafreddaが単一畑表示を導入。その後中部にも波及し、1969年にはMeliniが単一畑によるキャンティ・クラッシコをリリースします。
タスカ・ダルメリータが1970年に発売したロッソ・デル・コンテは、「単一畑・長期熟成」を実現した初めてのシチリアワインとなりました。北部や中部で形になりつつあった概念が、条件の異なるこの地で初めて導入されたのです。畑を品質の根拠として語ることが、シチリアで成立するのか。1959年にネーロ・ダーヴォラとペリコーネを植樹した単一畑「サン・ルチオ」から生まれたロッソ・デル・コンテ(現リゼルヴァ・デル・コンテ)は、その問いに対する回答でした。

国際品種|比較の俎上に自らを置く挑戦
タスカ・ダルメリータがレガレアーリで国際品種の栽培を始めたのは1979年のこと。カベルネ・ソーヴィニヨンに始まり、1985年にはシャルドネも植樹します。これは先代ルーチョ・タスカによる導入で、背景には彼自身の各国のワイン・テイスティングと、ナパ・ヴァレーやボルドーへの視察経験もありました。またトスカーナで初めて国際品種を導入したサッシカイアに対しては深い敬意を示していました。
シチリアという土地が、国際品種という大舞台でどこまで通用するのか。結果としてルーチョ・タスカによれば大成功をおさめます。シチリアを他国の銘醸地と“比較可能なテロワール”として位置づけ、ヴィーニャ・サン・フランチェスコ〈カベルネ・ソーヴィニヨン/シャルドネ〉は現在も高い評価を受けています。
国際品種の導入によってシチリアのテロワールを世界に示したことが、タスカ・ダルメリータの第一の挑戦だとすれば、ノッツェ・ドーロやチグヌスに見られる国際品種と地場品種のブレンドは、その先にある第二の段階と言えます。国際品種と地場品種のブレンドが引き出すこの土地ならではの個性を、より明確に表現することに至りました。

サステナビリティ|「次の時代」へ繋げることの挑戦
タスカ・ダルメリータはシチリアの生産者とともにSOSTAINを立ち上げました。これは既存の国際認証をそのまま導入するのではなく、小さな大陸と表現されるシチリアの地理・気候条件に即した基準を産地側から設計する試みです。継続・再現可能であること、毎年同じ前提でワインを語れること。環境配慮にとどまらず、品質を長期的に維持するための設計と捉えることができます。その姿勢は、ワイナリー全体の評価とも結びついていきます。後年、Wine Enthusiast がタスカ・ダルメリータをシチリア史上初の「欧州最優秀ワイナリー」として評価した背景には、ワインが生まれる環境を更新し続けている点が含まれていました。

挑戦が導いた評価
5つのテヌータを持つタスカ・ダルメリータの評価は、特定の一本に集約されるものではありません。まず注目すべきは、最もベーシックなワインたちです。自社瓶詰めの始まりと言えるレガレアーリ・ビアンコとネーロ・ダーヴォラは、エントリーレンジながら長年にわたり安定した評価を受け続けています。生産者としての信頼が、まずこのレンジでの味わいの一貫性に支えられています。最上位であるロッソ・デル・コンテとリゼルヴァ・デル・コンテは、単一畑・長期熟成という性質から、即時的なインパクトよりも熟成を前提とした完成度が語られることの多いワインです。リゼルヴァ・デル・コンテ2016年がWine Advocateにおいて 97点を獲得するなど、高い完成度を表しています。近年では、エトナのテヌータであるタスカンテも高い評価を得ています。標高、土壌、品種が大きく異なるにもかかわらず、評価のトーンが変わらない点は、品質の判断基準が生産者の中で共有されていることを示しています。
前述の通りWine Enthusiast では、タスカ・ダルメリータはシチリアのワイナリーとして史上初めて「欧州最優秀ワイナリー」を受賞。一方、Gambero Rosso においては〈トレ・ビッキエーリ〉獲得30回超の三ツ星生産者として位置づけられています。ベーシックから最上位まで、5つのテヌータを横断して評価が成立している。その層の厚さが、タスカ・ダルメリータの評価と言えるでしょう。さらに特筆すべきは、タスカ・ダルメリータがイタリア名門ワイナリー協会グランディ・マルキ の創設メンバーであり、イタリア政府から マルキオ・ストリコ の認定を受けている点です。受賞歴の集積のみならず、イタリアワインの評価基準そのものを形づくってきた存在であることを示しています。

タスカ・ダルメリータが行ってきた選択は、いずれも当時は異端であり挑戦でした。名を掲げること、品質を語る単位を定めること、比較の座標軸を持つこと。その結果として、タスカ・ダルメリータは説明を要する存在ではなく、無意識に参照されるシチリアワインの基準となっています。
そして今、この日本市場で、タスカ・ダルメリータの取り組みとワインをあらためて紹介できることは、インポーターとして率直に光栄と感じています。特別な一本としてだけではなく、日常の中で幅広く選ばれていくこと。その積み重ねの中でこそ、この生産者が築いてきた味わいは最もよく伝わるはずです。ぜひ多くの場面で使っていただき、たくさん飲んで、たくさん選んでいただけたら嬉しく思います。
- Tasca d’Almerita 公式サイト https://www.tascadalmerita.it/
- Lucio Tasca インタビュー(Alain Elkann) https://www.alainelkanninterviews.com/lucio-tasca-dalmerita/
- Decanter https://www.decanter.com/
- Duca di Salaparuta https://www.duca.it/
- Vietti https://vietti.com/
- Fontanafredda https://www.fontanafredda.it/
- Melini https://www.melini.it/
- Regaleali Bianco https://www.tascadalmerita.it/en/wines/tenuta-regaleali-regaleali-bianco/
- Rosso del Conte https://www.tascadalmerita.it/vini/tenuta-regaleali-rosso-del-conte/
- Riserva del Conte https://www.tascadalmerita.it/vini/tenuta-regaleali-riserva-del-conte/
- Vigna San Francesco https://www.tascadalmerita.it/en/wines/tenuta-regaleali-vigna-san-francesco/
- Nozze d’Oro https://www.tascadalmerita.it/vini/tenuta-regaleali-nozze-doro/
- Nero d’Avola https://www.tascadalmerita.it/en/wines/tenuta-regaleali-regaleali-nero-davola/
- Wine Advocate https://www.robertparker.com/
- SOStain Sicilia https://www.sostainsicilia.it/
- Wine Enthusiast https://www.winemag.com/
- Gambero Rosso https://www.gamberorosso.it/
- Wine Spectator https://www.winespectator.com/
- Grandi Vini https://en.grandiviniditalia.com/
- Marchi Storico https://marchistorici.com/en/
