コラム2026.05.06

国際品種と地品種、両輪で語るラツィオのテロワール

カザーレ・デル・ジリオ

「産地」の評価を高めるには、二つの道があります。ひとつは、世界が知っている品種で戦うこと。もうひとつは、その土地にしか存在しない品種で語ること。カザーレ・デル・ジリオが選んだのは、その両方でした。

左:当主アントニオ・サンタレッリ 右:エノロゴ パオロ・ティーフェンターラー

二つの道を同時に歩む

 「私たちの本当の望みは、ラツィオ産ワインの品質が世界で認められることです。」アントニオ・サンタレッリ。

 アントニオ・サンタレッリ氏はカザーレ・デル・ジリオのワインの歴史を、三つの局面で語ります。『第一段階はアグロ・ポンティーノにワイン産地を文字通り創り出した「実験期」。第二段階はこの土地が国際品種で高品質なワインを生み出せることを証明した「確立期」。そして今まさに経験をしている第三段階が、ポンツァ島のビアンコレッラ、本土ベッローネの復活とチェザネーゼの優雅さの探求といった、ラツィオの地場品種を活かす「再発見期」』です。国際品種で世界基準の評価を獲得したカザーレ・デル・ジリオが、地場品種と共にラツィオワインの可能性を追い求め、ワインを世界に届ける旅は、今も続いています。

国際品種と地場品種を通してラツィオのテロワールを表現する

ジリオ=百合の花が咲く地図

 180haの畑を擁する本拠地アグロ・ポンティーノを中心に、ポンツァ島、アンツィオ、オレヴァーノ・ロマーノという三つのエリアが広がる様子は、ワイナリーの名前にある「百合の花」そのものを描いています。中心のつぼみが本拠地、開いた花びらの先端に位置する3つの個性的な産地では、ラツィオの地場品種を使ったワインが醸されています。

ファロ・デッラ・グアルディア/ビアンコレッラ|ポンツァ島

 本土から50kmのティレニア海に浮かぶポンツァ島。火山が隆起して生まれたこの小島は、かつて絶壁が続く険しい地形でした。現在は切り拓いた段々畑が連なり、わずかな区画で葡萄が育てられています。島には灯台が設置されており、ワインにはその名をそのまま冠した「ファロ・デッラ・グアルディア=見張りの灯台」という名が付けられています。イスキア島から17世紀に移植されたビアンコレッラが根付くこの地で、カザーレ・デル・ジリオは果皮ともに醸すポンツァ島独自の醸造方法を導入。現代的なオレンジワインの文脈とは異なる、この島に伝わる伝統的な手法が、火山性土壌の複雑なミネラルをワインに映し出します。このビアンコレッラは、カザーレ・デル・ジリオに初めてのトレ・ビッキエーリをもたらしました。

1866年にポンツァ島につくられた灯台 Punta della Guardia

アンティウム/ベッローネ|アンツィオ

  本土海岸沿いのアンツィオには、海からわずか1kmの区画で、樹齢70年を超えるベッローネが植えられています。接ぎ木をしていない自根の古樹です。この区画との出会いは、エノロゴのパオロがワインショップを営む友人から「後継ぎがいない畑がある」と紹介されたことがきっかけでした。その縁がなければ、この古樹は今日まで残っていなかったかもしれません。

 「ベッローネ」とはイタリア語で美しいを意味する「BELLO」の最上級。その名にたがわず、大きくつややかな実で、強い酸とふくよかなボディが特徴です。「海岸の砂質土壌に理想的な環境を見つけた」とアントニオ氏が語る通り、古樹の力強さと潮を思わせるような海のミネラルが交差する、他にない味わいです。1haの区画で造られるこのワインには、アンツィオのローマ語表記そのままに「アンティウム」という名が冠されています。土地と時間の結晶ともいえるこのワインは、トレ・ビッキエーリ獲得のほか、デカンターが選ぶ「世界のベストワイン50本」に選出されました(2023年VT)。

アンツィオにもつアンティウムの畑は、接ぎ木なしのベッローネが植えられている

マティディア/チェザネーゼ・ダッフィーレ|オレヴァーノ・ロマーノ

 ローマ内陸の丘陵地帯、オレヴァーノ・ロマーノでは、本拠地とはうってかわって標高450mを超える火山性土壌の斜面にチェザネーゼを育てています。本拠地のアグロ・ポンティーノでもチェザネーゼを育てようと試みましたが、山岳地帯を好む品種特性から結果が出ず、その本質を引き出すためにふさわしい土地へ赴きました。「チェザネーゼはオレヴァーノ、ピリオ、ダッフィーレの山岳地帯でこそ、その品質ポテンシャルを最大限に発揮する」というアントニオ氏の言葉は、経験に裏打ちされています。収穫時期は10月中旬と晩熟で、長期熟成のポテンシャルも持っています。カザーレ・デル・ジリオの本拠地では、早いものは8月に収穫をはじめています。同じワイナリーでありながら、収穫期が3か月に及んでいます。

 オレヴァーノ・ロマーノでは、毎年8月末に開催される祭り「サグラ・デル・チェザネーゼ」が今年で51回目を数え、チェザネーゼと歩む歴史を祝い続けています。その「チェザネーゼ」の上級キュヴェとして生み出されたのが「マティディア」です。ワインの名前は古代ローマの貴婦人マティディアに由来。ローマ皇帝トラヤヌス帝の姪で、没後に神格化され、神殿が捧げられた人物。その神殿跡が現在カプラニカにある教会に重なるとされており、奇しくもサンタレッリ家がワイン商として歩み始めた縁の地でもあります。

標高450mを超える内陸の地、オレヴァーノ・ロマーノ

国際品種と地場品種の両輪が描く、ラツィオの輪郭

 「ラツィオの地場品種は歴史に深く根ざしている。ラツィオのワインを世界に知らしめることは、ワインを語るだけでなく、歴史を語ることでもあり、それが出来る産地は世界でも数少ない。」とアントニオは語ります。その言葉を受けるように、エノロゴのパオロはこう展望します。「カザーレ・デル・ジリオが目指す未来のワインは、長熟で、サステナブルで、テロワールの表現としてますます深まるものです。人、気候、土壌、品種、歴史の要素を詰め込み、体現するワインになっていきます。」

 「歴史的にラツィオのワインは質より量に注力していましたが、今は変わりました。ベッローネやチェザネーゼといった地場品種に取り組む生産者だけでなく、それぞれの地で柔軟に品種を選び、高品質なワインを生み出しています。」エクスポートマネジャーのリンダ氏の言葉が示すように、カザーレ・デル・ジリオの両輪の取り組みは、ラツィオ全体に広がっています。

 このアプローチは、カザーレ・デル・ジリオだけでなく、イタリア各地を代表するワイナリーに共通しています。シチリアのタスカ・ダルメリータもまた、国際品種で世界の評価基準を満たしながら、ネロ・ダーヴォラをはじめとする地場品種でシチリアを語るという、同じ道を歩んできました。異なる土地の、異なる品種ですが、「テロワールを表現するために多様な品種を活かす」という点は重なります。

 「ラツィオをトスカーナやピエモンテのように、世界的産地として認知させたい。」リンダ氏が力強く語る言葉を体現するように、国際品種と地品種、その両輪を回し続けることで、カザーレ・デル・ジリオはラツィオの可能性を、一本一本のワインで描き続けています。


カザーレ・デル・ジリオ

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